1999年2月5日金曜日

「バブルで滅んだ国はない」

不況もこれだけ長引いてくると、景気の悪い話など誰もあまり聞きたくなくなるものと見え、経済見通しについて観察するところをありのまま申し上げると「どうも悲観的にすぎるじゃないの」とか「景気の悪いのは百も承知。少しでも明るいところを探してきてほしい」などいわれることがある。小渕首相も通常国会の冒頭の施政方針演説で「いまや大いなる悲観主義から脱却すべきときが来ている。いま必要なのは確固たる意志を持った建設的楽観主義である」と強調し格好がよかった。まことにもっともな態度であるが、それをとらえて「調査機関や企業の調査部門の連中が弱気なことばかりいうから日本経済はますます萎縮するのだ、あいつらはけしからん」ということにつながるのなら、それはちょっと違うという気がする。

たしかにビジネスマンの基本的資質に楽観的ということがある。しかしこの楽観的ということは、外的環境を自分に都合のよいようにねじ曲げて甘く解釈することではなく、外的環境をありのままに見据えた上で、積極的に、適切な対応策を実行に移すことにあると思う。それこそ「建設的な楽観主義」であろう。

現実に、多くの日本企業が、かつて景気のよかった頃には手が着けることができなかった構造改革に本腰を入れて着手している。なにせ企業の生き残りがかかっているのである。その意味で、今回の不況は、時代に適合しなくなっている昔からのしがらみを断ち切る絶好の機会ともいえるのだ。

こういった企業の対応は、主に人件費などの固定費の削減を目指すもの、不採算部門からの撤退、または合併・業界再編、さらに新規成長分野・得意分野への集中的な投資など、いくつかの種類に分類できる。これらの動きは連日のように新聞紙上をにぎわしており、日本企業の対応の的確さと迅速さには目を見張るものがある。もっともいまの大不況にあって初めてこれが可能になったという面もあり、不況にもなかなかよいところもあるのである。

経済発展の歴史をみると、バブルとその崩壊は限りなく繰り返されたが、それで滅んだ国はなかったことがわかる。景気循環の歴史の専門家によれば、好況と不況(恐慌)は19世紀以来、ほぼ10年ごとに繰り返されてきたが、不況(恐慌)の度ごとに、当該社会の産業競争力が強化され、生産性の向上が見られたという。

国は経済の悪化によっては滅亡しない。経済悪化で情緒不安定になったときに下す政治外交的判断の誤りによって滅ぶといわれるが、企業においても同じことだ。

平成不況の中、大部分の日本企業は冷静に平常心を失わず、着々と正しい対応を実行しつつあるのを見るにつけ、不況は来年まで続くかもしれないが、日本産業の競争力は着実に強化されつつあると判断する。そういう意味で、私はきわめて楽観的なのである。

(1999年2月5日 橋本尚幸)

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